◇ はじめに
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、政治・経済・社会はじめ我が国の様々な方面に強制的なリセットを求めることとなった。今後、エネルギー政策については原発を巡り国民的な大議論がなされなければならないが、税制から、都市構造、自治制度、働き方まで広範な分野で新たな在り方が求められている。これまで何度となく議論されてきた東京一極集中の問題も都市のバックアップ機能という面から再度踏み込んだ論議が必要となるだろう。
一方で、我が国は、経済成長が鈍化してからかなりの期間が経ち、こうした中で、今や人口減と超高齢化が急激に進む「ちぢみ」時代にある。しかし、未だ、こうした未経験の環境激変に対応できるようなシステム変更がきず、ここ10年以上、人間に例えれば重度の成人病を煩っている状態にある。老年に達し成人病を患っている状態で事故に遭い大けがをしたのが今の日本の姿ということだ。
では、震災を契機とする強制的リセット後に、日本はどのような復活の展望を持てるのだろうか。私は新しい国のかたちは、分散・分権型のネットワーク社会をイメージしている。それぞれの地域がその特色を生かし切ることで、さまざま違った花を咲かせる。そうした地域がそこかしこにでき、それらが緩やかにネットワークでつながる「百花繚乱」状態が私の瞼に映ずる再生日本の姿である。
しかし、そのためには地域の住民と行政、そして地方議会からなる地方政府が再生することこが必要条件となる(ここでは、住民、行政、議会を構成要素とする自治体を地方政府と呼ぶ)。再生した地方政府が地域資源を徹底的に生かした地域づくりを進め、相互補完的に他都市、他地域とつながることで各地域が活力を持ち、国全体としても復活することができるのだ。もちろん、こうしたことを後押しする大胆な自治制度改革が必要となる。
本書は地方政府の一翼を担う地方議会議員として八王子の地域政治に関わってきた立場からの地方政府の再生(なかんずく、地方議会の再生を通じての)と地域再生への提言である。
目次
第Ⅰ章 地方議会の現場から
一、政治の世界へ
二、選挙 激しくも、おかしく哀しい人間ドラマの世界
- 選挙に出た人間は、自らの得票数を決して忘れない
- 清水の舞台が高い、リスクのある世界
- 選挙 そこで繰り広げられる泣き笑いの人間ドラマ
三、日本の地方自治体の仕組み
四、建前としての地方議会、実態としての地方議会
- 建前としての地方議会
- 実態としての地方議会 Ⅰ
- 鋭く対立する首長と議会、融合化する首長と議会
- 長高―議低
- 客体としての地方議会
- 議員間の議論の不足
- 議会パッシング
- 政策形成機能の発揮
- 実態としての地方議会 Ⅱ 実例に見る地方議会
- 環境基本条例制定を巡る動き ―議員提案条例成立を目指して―
- (1) 議員提案による条例づくりを目指す
- (2) 試行錯誤の条例素案づくり
- (3) 条例化に向けた市の動き
- (4) 条例を巡る政治過程 ―懐柔と圧力―
- (5) 環境基本条例を巡る顛末 ―法定の賛同者数を確保できず―
- (6) 政策的条例案の議員提出への情熱が醒めていく
- ワークショップ型のまちづくり ―追分交通問題協議会への取り組み―
- (1) 二期目のテーマ設定は地域のまちづくり支援
- (2) 切っ掛けは歩道橋撤去署名
- (3) 歩道橋利用実態アンケート調査を実施
- (4) 追分交通問題協議会設立
- (5) ワークショップ型の会議
- (6) 地域としての交差点改善案をまとめ国に提出
- (7) コンサルタント議員
- (8) 地域と協働する新しい議員活動
- 政治倫理条例を巡る動き
- (1) 現職市長三選にNO
- (2) 会派分裂 二対十三へ
- (3) 離党
- (4) イバラの道
- (5) 八王子市政治倫理条例の制定を目指す議員の会 発足
- (6) 条例提案に向けた準備
- (7) 条例案を巡る政治過程
- 九月十二日本会議 反応なく淡々と進んだ提案説明
- 第一の山場 九月十六日総務企画委員会 五時間を越える審査
結論は先送りへ - 十一月十七日 総務企画委員会 年内対案提出を表明 再度の継続審査へ
- 結論は二月の臨時議会へ
- 議会審査の天王山 平成二十一年二月十六日臨時議会 決着へ
- 三月六日 本会議採決 「対案」可決
五、地方議会、改革の方向性
- 見えてくるのは全国共通の課題
- 議会基本条例 ―そもそも論から議会のあり方の議論を
- 議員の意識が議会を変える
- 首長の振る舞いが議会を変える
- 長は長として 議会は議会として
第Ⅱ章 自治体経営と八王子の未来
一、これからの自治体経営
- 地方分権の時代
- 親離れ、子離れを
- 「隣の市より税金が高い」は本当か
- 厳しさを増す自治体財政
- 財政基盤の強化と行財政の改革は永遠の課題
- 行政の守備範囲を考える
- 納税者主権意識を徹底して
- 地域の個性を伸ばす
- 挑戦なきところに未来なし
- 将来を見据えて 次の時代に引き継ぐ
二、八王子の未来を考える
- 八王子 ―かつて機織りの音がそこかしこに響いていたまち―
- 目指すべき将来の姿とは ―都会と地方の両方の良さを持つ 大いなる地方都市―
- ほっとする大いなる地方都市に向けた基本戦略
- 都市間競争とは
- 個性あるまち
- 民の力が生きるまち
- スマート・ポリティクス・シティ
- チャレンジする意気に溢れたまち
三、新しい八王子に向けた 五つ星プロジェクト
- 政治のスマート化プロジェクト
- 切磋琢磨の自治体政治をつくる
- 予算過程の見える化を進める
- 入札や契約に絡むグレー感をなくす
- 都市の自立化、都市力アップ プロジェクト
- 都市内分権プロジェクト ―八王子合州国構想―
- 民力活用プロジェクト
- まち活性化プロジェクト